“氷の下に沈みし王都”スレイガンド - 明日の行き先 #10
中央山地を越えて北に行くと、急速に寒さが増す地域がある。 そこは夏でも吹雪がやまない異常な土地であり、勇猛で知られる“破城槌公国”のドワーフでさえ立ち入ろうとはしない。 彼らは言う。かの地は呪われていると。
かつて、そこには偉大な王が治める国があった。 しかし、その土地はやせており、冬は長く、実りは少なかった。 ある日、民が生活に苦しむ姿を見て苦悩する王の元へ、旅の魔法使いがやってきた。 魔法使いは言った。 「今、民は飢えております。なぜならばこの土地は冬が長く、寒さに作物が育たないからです。王が望むならば、私は秘術を用いて、冬を駆逐してご覧に入れましょう」 それは、冬の寒さを魔法の品の中に閉じこめてしまう魔法だった。 王は言った。 「それこそ私の望むところである。しておまえは褒美に何を望むのか」 魔法使いは答えた。 「なにも望みませぬ。人々に奉仕することが魔法使いの喜びでございますゆえ」 そして魔法は行われ、「冬」は宝玉の中に閉じこめられた。 最後に魔法使いは王に告げた。 「宝玉の中に閉じこめられる冬は、一つにつき一年のみ。宝玉を重ねて用いれば必ずや災いをよびましょう。努々忘れること無きよう」 魔法使いは王に魔法を伝授すると去っていった。
それからこの国に冬が来ることはなくなった。 ますます国は富、大きくなり、そして王は魔法使いの言葉を忘れてしまった。 「毎年このような宝玉を用意するのは金がかかる。これからは以前使ったものを使い回すとしよう」 そうして八年目には最初に使われた宝玉が再び使われることになった。
魔法は滞りなく行われ、「冬」は例年のように宝玉に閉じこめられた、かに見えた。 魔法が行われてから、日に日に宝玉は膨らんでいった。 王は後悔したが、どうしたらいいか解らなかった。 時間は無駄に過ぎ、ついにある日、宝玉にひびが入り、中身が孵った。 中からは恐ろしい魔獣が飛びだしてきた。 この魔獣には剣も槍も利かず、あたりに雪と氷と死をまき散らしていった。 ここにいたって王は気づいた。 あの魔法は冬を閉じこめる魔法ではなく、冬を養分にして魔獣を創り出す魔法だったのだと。 王国の騎士団は勇敢に戦ったが無駄だった。 魔獣はどんどん大きくなり、ついに王国は魔獣の作り出す雪と氷の下に沈んだ。
そのまま魔獣は王国の外れにある神殿を飲み込もうと近づいたが、その前に一人の年若い娘が立ちふさがった。 魔獣は雪と氷で娘を凍らせようとしたが、不思議なことに娘の服一枚凍らせることはできなかった。 次に魔獣は牙でかみ砕こうとしたが、やはり娘の肌一つ傷つけることはできなかった。 そして娘はたやすく魔獣に手綱を付けると一緒にどこかへ去っていった。
生き残った神官によれば、かの娘は春の女神だという。 そして女神は残った六つの宝玉を回収し、天空に帰ったと伝えられている。 いまでも夜空で青白く輝き寄り添う六つの星こそ、その宝玉なのだ。
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